金沢家庭裁判所輪島支部 昭和35年(家)31号 審判 1960年6月04日
申立人 山下洋吉(仮名)
未成年者 大木久江(仮名)
主文
本件申立を却下する
理由
申立人は未成年者大木久江を養子とすることの許可を求め、その理由として、申立人は身寄のない独り暮しであるのを、亡妻の兄の子である右大木久江を養子に貰い受け老後の面倒をみて貰いたいというのである。
当裁判所が申立人本人及び未成年者大木久江を審問しな結果によれば、申立人は現在漁網の洗濯、修理により単身細々と生計を維持しており、資産として見るべきものはないこと、従つて右大木としては、かりに申立人の養子となつたとしても、申立人の養育を受けるというような関係にはなく、申立人の身のまわりの世話をすることは当然としても、自己の生活は、その稼働もしくは実家で養つて貰うほかない実情にあり、結局本件養子縁組は、もつぱら養子に養親の世話をさせることだけが目的であることが窺われるのである。
思うに、個人の尊厳を基調とし家の制度を廃止した現行民法において、未成年者を養子とすることについて家庭裁判所の許可を必要としたゆえんのものは、思慮の十分でない未成年者のため、その保護の立場から、家裁庭判所をして未成年者のため、その養子縁組が真に子の福祉をもたらすかどうかを審査させるにあるものと解すべきであり、この観点から本件をみるに、本件縁組においては前記のとおり、もつぱら養子たるべき者の負担において養親たるべき者の扶養責任を引き受け、その幸福に奉仕するだけで、未成年者自身の利益もしくは幸福の招来を窺わせるに足る資料は一つもないのである。しかも養子たるべき大木久江が一七才四か月の女性であり、申立人が六五才の老令とはいえ健康な独身男性であり、こうした異性が同一家屋内に起居を共にすることは、得てして不倫な関係が生じ易い危険なしとしない。
以上のような事情のもとにおいて本件養子縁組を許可することは、前記法律の精神に反するものと思われるから本件申立はその理由がないものと認め、主文のとおり審判をする。
(家事審判官 梶田幸治)